Welcome to my blog

まぎあっと。PSO2

PSO2をしながら、その雑記、初心者向け講座、そして自作小説など書いていくブログです

 スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

 Time After Time 1章 託された想い 第Ⅳ話




 陽の光が燦々と、降り注いでいる。

 梅雨も早々に明け、やがて来るであろう真夏を乗り切るため準備に入る。

 それは那波の住む家でも例外ではない。

 先日からこの家の主は、三ヶ月もの長期任務に出かけている。

 主であるシュナイゼルが留守の間、那波の世話はラミネがすることになっている。

 今日はそのラミネと、デパートに行く予定だ。






「那波ちゃん、支度はできた?」

「ちょっとまってー……うん、できたよ!」



 今日は、シュナイゼルが誕生日にくれた服で出かける。

 フリルが適度についた白のワンピースに、大きな麦わら帽子、そして……

 母の形見のペンダントを首からさげる。



「へえ~、それが隊長からの誕生日プレゼントなの?」

「そうだよ! どう、似合ってる?」



 那波はその場でターンをし、笑顔を決めた。



「とっても可愛らしいじゃない! でもどうせならバッグかポーチが欲しいところね……」



 ラミネは 「何かないかしら」 と首を傾げて考えていた。

 那波も同じことを思っていた。

 白のワンピースに合うとしたら、柔らかい色のバッグだろうか。

 ゴシックにきめるなら黒という選択肢もあるだろう。

 しかし生憎、持ち合わせがない……



「せっかくデパートに行くんだから、ついでに買っちゃう?」

「え、でも……私お金が」



 「あまりないんです」 と、言おうとする那波を遮り



「そのくらい買ってあげるわよ、任せなさい!」



 「えっ!?」 と思わず声が出て、抗いようもなく表情がほころんだ。

 大人しめのバッグもいいが、レースの付いたバッグも捨てがたい。

 ……いやいや、何を考えているんだ私は。

 女性モノのバッグといえば、決して安いものではない。

 それに、ラミネは家族でもない子供の世話を三ヶ月も任せられている身だ。

 当然、那波の度の過ぎた我儘になど、付き合わせられようはずもない。

 甘えるわけにはいかないのだ。

 「で、でも……」 と、戸惑いの顔から察したように、ラミネが続けて喋る。



「いいのよ! それに、この前那波ちゃん 『三人でいると家族みたい』 って言ってくれたじゃない」

「私はまだ、自分の家庭なんて持ったことないから母親の気持ちなんて解らないけど、凄く嬉しかったの」

「だから、実の母親の代わりにはならないかもしれないけど……そのつもりで甘えて来なさい!」



 胸の中に、暖かなものが広がっていく。

 まるで大きな翼で背後から包み込まれるような感覚。

 久しく触れていない母の温もりに似た物を思い出す。

 ああ、これが母親なのだと、那波は改めて実感し

 気づいた時には、ラミネに抱きついていた。



「ありがとう……ラミネさん」



 那波は深く安堵した。

 「家族みたい」という言葉が迷惑ではないかと、正直不安だった。

 だがラミネは寧ろ、嬉しいと言ってくれた。

 思えば最初から那波のことを気遣っていたではないか。

 交流を深めようと積極的に話しかけてくれたのもラミネだ。

 ラミネは抱きつく那波に 「あらあら」 と優しく髪を撫でる。

 母親が小さい子供を寝かしつけるように、ゆっくりと、丁寧に……。











 那波とラミネがデパートに来た理由は ”センプーキ” を買うためだった。

 少し前、家のエアコンが壊れてしまった。

 しかし、エアコンを買うといっても、決して安い買い物ではない。

 家の主であるシュナイゼルも、夏の間は出張で不在のため、できるだけ出費は抑えたい。

 ならば、ということでこの ”センプーキ” というのを見に来た。



「あ”あ”ぁ”ぁ”~」



 面白い。

 センプーキに向かって声を放つと、回転している羽へと交互にあたり

 ものすごい速さで声が大きくなったり、小さくなったりするため、起こる現象だ


 ……と、店員が言っていた。



「これなんか効き目良さそうじゃない?」



 ラミネが指さした先には一見古臭いセンプーキが置かれていた。

 その下にはデカデカと



『凄まじい勢いで暑さを吹き飛ばします!!』



 と、宣伝されていた。

 しかし、よく見るとその下に小さな文字で



『注意:稀に体が吹き飛ぶ恐れがあります』



 と、書かれていた……。





 結局、普通のセンプーキを購入し自宅に届けてもらうよう頼み、家電コーナーを後にした。

 早いと三日後くらいには届くそうだ。

 「でもあのセンプーキ、誇張しすぎでしょ~」 と、ラミネと他愛もない話をしながら

 二人はフードコーナーで一息つく。



「結構人が多いね」

「まぁ祝日だし、これから暑くなるからねぇ……今の時期に家電を揃えようとする人もいるんだよね」



 と、ラミネがアイスティーを飲みながら喋る。

 確かに祝日ということもあり、四方八方どこを見ても人ばかりだった。



「おじさん、元気にしてるかな?」

「こっちを出てそろそろ一ヶ月か。まあ隊長なら大丈夫よ、なんだかんだしっかりしてるしね」



 「そっかー」 と返事をして、ふと、違和感に気付く。



「ラミネさんって……普段そういうしゃべり方なの?」



 シュナイゼルがいる前と、今とでは口調に結構な差がある。

 やはりアークスも軍隊だし、言葉使いにも気を配らなければいけないのだろうか。



「ああ、これ? ……!! ご、ごめんなさい、気を緩めすぎてしまいました」



 我に返ったのか、いつもの勤務中の口調に戻ってしまった。

 ラミネは恥ずかしそうに赤面している。



「い、いや、今のままでいいよ! でもなんだか面白い!」

「そ、そう……? 隊長の前とかだとね、どうしても敬語使わなきゃいけないしね。一応、あれでも上司だからさ」



 「セクハラ多くて困るけどね……」 と付け足して言った。



「でも凄いなぁ。まるで別人みたいな口調になるんだね!」



 那波は尊敬の眼差しでラミネを見ていた。

 この人の評判はシュナイゼルからもよく聞く。

 真面目で、仕事も最後までバッチリこなす優秀な人と語っていた。



「最初はうまく切り替えれなかったけどねー……人間慣れるもんよね」

「私も大きくなったら、ラミネさんみたいにデキる人になりたいなぁ」

「那波ちゃんの努力次第、だねぇ?」



 と、ラミネは少し意地悪っぽく言ったが、実際のところはその通りだ。

 ラミネも最初は苦労したのだろう。



「よし、そろそろバッグ見に行こうか!」

「うん!」



 二人は話を切り上げ、ファッションコーナーへと足を運ぶことにした。











「あ! 那波ちゃん、これなんかどう?」



 ラミネがドギツい色のバッグを一つ、こちらに掲げててきた。

 ギラギラしたスパンコール、ゴテゴテとした装飾……。

 如何にも夜の街で髪の毛を盛った女性が持っていそうだ。



「私には……ちょっと……」

「えー! そうかなぁ……あ、じゃあこっちは?!」



 次にラミネが手にしたものは色こそ地味なカーキ色だったものの……



「確かに白の服には地味な色は合うけど、このバッグの模様……」



 那波は訝しげな顔をした。

 色は良いのだが模様が合わない。

 なぜ、カーキ色に黒アゲハの絵がプリントされているのか……

 製作者の意図がよく解らなかった。



「これも駄目ぇ? 那波ちゃん、どんなのが欲しいの?」

「うーん、やっぱり、模様もさほど無いおとなしい感じのバッグかなぁ」

「色は?」

「薄い水色とか・・・それか、ストローバッグとかかなぁ。帽子にも合うし」

「スト・・・なにそれ?」

「ストローは藁のことで、ほら、お弁当を入れるバスケットかごがあるじゃない? あんな感じの素材で出来てるバッグの事だよ」

「へぇ~……あんた物知りだねぇ!」



 雑誌を見ていたらストローバッグがあり、調べただけなのだが……

 やはりそんな知識でも、褒められると嬉しくなる。



 ふと、横の棚を見ると、ベージュ色のストローバッグがショーケースに飾られていた。

 ワンポイントとして、水色のリボンが一つ付いており、夏に合う涼し気な雰囲気を醸し出している。

 シンプルかつ、理想通りの出来に、那波は虜になってしまった。

 釘付けになっている那波に気づいたラミネが訪ねてくる。



「お、あれがいいのかい? 可愛らしいバッグじゃないか、うむ、ピッタリだと思うぞ。あれにするか?」

「いいの!?」



 そう返した時、那波はハッとした。

 ショーケースに飾られてるくらいだ、値段はきっと……



「高い……」



 思わず口に出てしまった。



「ん? どうした、そんな引きつったような顔をして」

「や、やっぱり別のにするよ」



 とても魅力的な見た目で、個人的にこの店のバッグの中でダントツなものだと思う。

 だが買ってもらう以上、贅沢は言えない。

 那波は急いで目線を別のバッグへと写す。

 しかしショーケースのバッグが気になってしまい、目線がどうしてもそちらに向いてしまう。

 「いけない、いけない」 と、再び目線を逸らすものの

 抑えきれない物欲に悪戦苦闘し、徐々にしかめっ面になって行く。

 そんな事をしていると、横にいたラミネが、フッと笑った。



「なーに遠慮してるんだよ! お姉さんにまかせなさい。あ、すみませーん」



 ラミネはウィンクを那波に贈り、早速店員を呼びつけた。

 世話までしてもらう上、こんな高い品を買ってもらっていいのだろうか?

 そんな後ろめたさもあり、那波は申し訳ない顔になってしまう。



「もう、そんな顔してちゃ駄目でしょ! 言っただろ、お母さんのつもりで甘えてこいって! これは私からの、ちょっと遅い誕生日プレゼントだよ」



 そうだった……

 それに、せっかく買ってくれたのだから、こんな顔をしていては駄目だ。

 那波は感謝の意を込めて 「ありがとう」 と顔で表現した。

 するとラミネも 「どういたしまして」 といったかのように、ニコッと笑顔を見せた。










 
 帰り道……

 陽も徐々に落ちてゆき、空は穏やかな茜色で包まれている。

 二人は家に帰る前に寄り道をすることにした。

 那波は暗くなる前に、どうしてもラミネに見せたいものがあったのだ。



「ほえ~……でっかい木だなぁ」



 ラミネは口を大きくあけ、目の前のケヤキの木を見上げていた。

 高さ三十メートルにも及び、通常のケヤキよりも大きい。



「……ここはね、研究所の近くにあった木と凄く似てるんだ」

「……!」



 ラミネは一瞬眉をひそめ、真面目な顔つきになった。



「研究所へ遊びに行ったついでに、よくその木の下でお昼寝してたんだ」

「那波ちゃん……記憶、もどったのかい?」

「そこの部分だけ、ね。相変わらず親の顔は思い出せないけど……」

「そうかい……」



 お互い曇りがかった顔になった。

 だけど今日、ここに来たのは思い出話をするためじゃない。

 那波はかねてから考えていた事を、ラミネに相談した。



「……ご両親のお墓を、ここに?」

「うん。私の両親は死んじゃったけど、だったらせめて、お墓くらい作っておかないと、寂しいなって……」



 本当は研究所近くの木の下に作りたかったのだが、この数年であそこには民家が建てられてしまった。

 人様の土地にお墓を建てるわけにもいかない。

 そんな中、偶然にもこのケヤキの木を見つけたというわけだ。



「ここはちょっと高い丘の上にあるから、見通しも良くていいなって思って……ダメ、かな?」

「出来ないことはないけど……ご両親の遺骨はもう……」

「それは解ってる。だから形だけってことになるけど」

「うん、それなら私がなんとかしよう!」

「ありがとう、ラミネさん」



 遺骨がないとはいえ、やはりお墓は建ててあげたい。

 確か遺骨がある場合、勝手に埋めることは許可されないハズだが

 今回はそれがないため、簡単な作業で出来そうだ。



「それじゃあ、早速明日建てよう。今日はもう陽も暮れるし、そろそろ帰ろうかね」

「うん!」

「それはそうと、今日の晩御飯、なんにする?」

「手巻寿司が食べたい! ラミネさんの手巻き寿司美味しいし」

「お、嬉しい事言ってくれるねぇ~。じゃ、それにしようか」



 そんな会話を交わしながら、真っ直ぐ家に帰ることにした。



 陽はもうすぐ、完全に沈むところまで落ちていた。

 遠くのほうでカラスの鳴き声がする。

 もうすぐ夜だ……。

 すると突然、強い風が那波を襲った。

 まるで背後から頭に銃口を突きつけられるような、そんな感覚に襲われた。



「ん? どうした?」



 ラミネは何事もなかったかのような顔をしている。



「いや、ちょっとさっきの風が冷たくて……」

「風? 風なんて吹いたっけ?」



 ……どういうことだろう。

 一瞬とはいえ、突風のような風だったのに、気づいていない?

 それとも、私の気のせいだったのだろうか……











 晩御飯を食べ終わり、お風呂を済ませた那波は、床に入ろうとしていた。

 眠気の混じった意識の中で、今日の事を振り返る。

 もはやこれは那波の恒例行事というやつだ。



「良いバッグも買ってもらえたし、美味しい物もいっぱい食べれたし……」



 思えばデパートに行く、なんて事は久々だ。

 普段は家で読書やテレビをみたりして時間を潰していた。

 外に出るにしても、近所のスーパーにフラッと立ち寄る程度。

 『たまにはこういうのも良いもんだね』 と、思う。

 同時にラミネの素顔を見ることもできた。

 いつも堅苦しい口調なので、生真面目な人かと思ったが割とそうでもない。

 明るくて、気さくな人。

 ちょっと女性としてはズボラな所がありそうだけど、私は好きかな。

 一緒にいると楽しい。



 それにしても、気になるのは帰る時に吹いた風の事……

 だがラミネは何も感じてなかったようだ。



「うーん……やっぱり気のせいなのかな?」



 眠気も限界に来ていたため、あまり深くは考えず

 「風邪気味なのかも」 と思い、そのまま寝ることにした。











「那波ちゃーん、朝ごはんだぞー!」

 

 一階にいるラミネの叫び声でようやく目を覚ます。

 むくり、と上半身を起こし目を擦りながら背伸びをする。

 窓から差し込む光は薄暗い。

 太陽の光は厚い雲で遮られていた。

 今日は曇りのようだ。

 時計の針を見ると時刻は八時を指している。

 那波は 「今行くー」 と返事をしながらベッドを降りる事にした。



 一階に降りると、ほんのりと味噌の匂いがする。

 同時に大根を摩り下ろす匂いと音もした。

 今日の朝食は味噌汁と大根おろしだろうか?

 毎朝朝食を匂いと音で想像するのが最近の日課だ。


 
「おはようー」

「おはよう。あら、寝むそうね、先に顔洗ってらっしゃいな」



 軽く 「はーい」 と返事をしながらきた道を戻り、洗面所へと向かう。

 先程ちらっと台所を見たが、どうやら鯖の味噌煮込みと大根おろしのようだ。

 惜しい……まさか鯖だったとは。

 味噌の匂いがするとはいえ、味噌汁とは限らない。覚えておこう。



「ただいまー」

「おかえり。どう? さっぱりした?」



 那波は 「うん」 と返事をし、席についた。

 「もうちょっとまってね」 と、ラミネは最後の品を作っている。

 ボウルには黄色い液体がかき混ぜられ

 続いて醤油、みりんが投入された。

 そしてラミネの手には四角いフライパン。

 俗にいう ”卵焼き器” だろう。

 醤油と卵の焼いた香ばしい香りが部屋に広がってゆく。

 やがで数個に切り分けられた玉子焼きが、丸皿に乗って食卓へと並ぶ。



「はい、おまたせ。それじゃ、食べようか」

「うん」

『いただきます』



 二人同時に手を合わせて会釈し、朝食を頬張る。

 食事は全員揃って食べる、というのがこの家のルールなのだ。

 それはラミネも同じようで、恐らくシュナイゼルが指導したのだろう。



 さあ、どれから手を付けよう?

 目の前には大根おろし、熱々の玉子焼き

 そして、鯖の味噌煮込みが食卓に広がっている。

 那波はあれもこれも、と目を輝かせながら迷う。



「この鯖の煮込み美味しい~!」



 結局最初に手にしたのはメインの鯖の味噌煮込み。

 思わず口に出てしまうほどの出来だ。

 味噌が魚に程よく染み込んでおり

 甘すぎず、辛すぎず、絶妙なバランスを保っている。

 続いてやってくる生姜の風味もよく合っている。



「ラミネさんってほんと料理上手だよね!」

「ふっふっふ、そうでしょう?」 少し誇らしげに胸を張った



 「今度教えてあげようか?」 とラミネが訪ねてきた。

 ラミネは和食、洋食ともになんでも作れてしまう。

 もちろん出来栄えも味も相当ハイレベルだ。

 那波も少し前から料理を教わっている。

 「お願いします、先生」 と、弟子が師匠にそうするように頭を下げた。





 朝食を終え、那波は洗い物作業に移る。

 分担してやるのは那波の希望でもあったからだ。

 鼻歌交じりに洗い物を済ませ、食器をトレイへとしまい

 食卓に座ってるラミネに声をかける。



「コーヒー飲む?」

「お、気が利くね。一杯お願い」

「はーい」



 食後にはいつもティータイムを行う。

 豆を挽いて、カップの上にフィルターを装着。

 フィルターの中に豆を流し、ドリップする。

 今でこそ簡単に出来るようになったものの、最初は豆を挽くことすらうまく出来なかった。

 堅かったり、挽きが荒かったりで、不味いコーヒーをよく生成したものだ。

 やがてほんのり苦味のかかった香りが鼻孔をくすぐる。

 この香りが、コーヒー好きにとってたまらない瞬間らしい。

 ちなみに那波にはよく理解できなかった。

 那波が飲むのはいつもミルクティーなので、苦さとはあまり縁がない。



「はい、おまたせ」

「ん、ありがと」



 ラミネはテレビに視線を送りながら会釈した。

 那波も自分のミルクティーを持ち、ラミネと向かい合わせに座る。

 まずは一杯。

 出来立てのミルクティーをズズっと一口。

 「ちょっと甘すぎたな……?」 と思いながらテレビの方へ顔を向ける。

 お昼前のワイドショーが映し出されている。

 夏も近い、と言うことでウォーターパークの宣伝を行っているようだ。

 ある程度広いプールなのだろうが、画面は人で埋め尽くされていた。



「ひえぇ……せっかくプールに行ってもアレじゃあ身動き取れないじゃないか」 と、ラミネが言う。

「やっぱりみんな考えることは同じってことなんじゃない?」



 プール……海かぁ。

 那波は行ったことがなかった。

 それは決してシュナイゼルがキャストだから海に入れない、というわけではない。

 見た目がロボとは言え、防水加工は当然してある。

 ただ、そういう場所に行く暇が取れないのだ。

 那波も女の子である以上、海にも行きたい。



 海といえば水着だ。

 どんな水着がいいだろうか。

 ビキニ……いや、ショートパンツも可愛い。

 シュナイゼルは何を着るんだろうか、ボクサーパンツ?

 想像してみたが、似合わない。

 まさかロボの見た目で泳ぐ訳も……

 その点、ラミネは身長も高く、大人っぽい水着が似合いそうだ。

 それこそビキニのような。

 「私もいつか、大人っぽい服が似合うようになりたい」 と思いを馳せる。

 気づくと、ラミネを凝視していた。

 いけないいけない。



 ……いつもならここで 「私の顔に何か付いている?」 と返ってくるのだが


 
 ラミネの目はカッと見開いたままだ。

 まるで信じられない物を見ているかのように。

 瞬き一つせず、テレビの上の方に視線を送っていた。

 流石に気になり、那波も視線の先を辿ってみる。

 そこには地震速報が流れていた。



『……震源地はポイント203、座標533,899地点。マグニチュード7.5と観測……』



 マグニチュード7.5!?

 とんでもない規模の地震ではないか。

 しかし、ポイント203と言えば相当距離が離れている。

 どんなに急いでも一週間はかかってしまう距離だ。

 また、そのエリア一帯は人間の居住区ではなく、一面の荒野が広がっていたはずだ。

 なのに――ラミネは目を見開いたまま硬直している。血の気がさっと引き、唇まで青白く染まっていた。動揺、狼狽、焦燥。それら負の感情が如実に顔色に表れている。



「ラミネさん……?」



 思い切って声をかけると、ラミネは体をビクつかせた。

 突然の呼びかけに驚いたようだ。

 一瞬顔をこわばらせたが、すぐに表情を変え



「う、ううん、何でもないわ。ちょっとトイレに行ってくるわね」



 と言って席をたとうとしたその時

 ラミネの携帯が振動する音が聞こえた。

 誰からかの電話らしい。

 ラミネは少し慌てながら、リビングを出て扉の向こう側で話をしているようだった。

 随分と慌ただしい雰囲気だ。

 何かあったのだろうか。

 那波は状況が読み込めないまま、とりあえずミルクティーに再び口をつけた。





 電話を終えたラミネが扉を開け、話を切り出す。



「ゴメン、那波ちゃん! お姉さんちょっと急の仕事が入っちゃって、今日のお墓づくり、別の日でもいいかな?」

「う、うん……いいけど、どうしたの?」



 そう問うて見たものの、ラミネは返事に困っているようだった。

 急ぎということもあり、深くは追求せずに玄関まで見送ることにした。



「ごめんね、夕方には戻ってくるから、それまでいい子にしててね!」



 それだけ言うと、ラミネは急いで家を出て行った。

 先程の地震速報と何か関係があるのだろうか。

 確かにあれだけの大きな地震だ。

 荒野が広がっているとはいえ、出動要請はかかるかもしれない。

 とはいえ、知識も浅い者が考えても仕方ない。

 那波は早々に思考を切り替え、掃除をすることにした。

 窓を空け、空気の入れ替えをしつつ、掃除機を稼働させる。





「――これでよしっと」



 大体の掃除はこれでいいだろう。

 あと残っているのはラミネの使っている和室だ。

 普段はラミネが自分で掃除するため、あまりしに行かないのだが

 今は本人が不在なので仕方がない。



「おじゃましま~す……」



 自分の住んでいる家なのに入る機会が殆ど無いため、少し緊張する。

 この和室は普段客間として使われているのだ。

 中央に大きめの木で出来た机が置かれている。

 床が畳なので、特に浮いたりはしない。

 壁際には 「一期一会」 と書かれた掛け軸が飾っており

 さらにその横にはノートパソコンが設置されている。

 このノートパソコンはラミネの物だ。

 住み込みでも仕事が出来るようにと、自ら持ち込んでいた。

 床の畳を傷つけないよう、程よく掃除機をかけて行く。

 すると突然 「ザザーッ」 というノイズ音が響いた。



「え!? 何!?」 と困惑する那波。



 発信源はどうやら中央の机からのようだ。

 上にトランシーバーのようなものが置いてある。

 ラミネの忘れ物だろうか?

 黒いボディから一本のアンテナが立っている。

 ボタンが両サイド、前面についており、素人にはどこを触っていいのか解らない。



「うーん……さすがに勝手に触っちゃまずいよね……」



 とはいえ、このままにしておくのも忍びない。

 無線機がどういう仕組かは解らないが、電池とかも消耗するのではないだろうか。

 しかし那波には電源の落とし方が解らない。

 変な所をいじって壊すと駄目だし……

 そう思っていると新たな電波を受信したようだ。



『総員……ちに……203へ急行……繰り返……』



 ノイズ混じりで聞き取りづらい。

 だが 「203」 という数字には聞き覚えがある。

 先程の地震速報だ。

 やはり、アークスも救援活動に出ているのだ。

 ラミネの急な仕事とはこれだろうか。

 などと考えていると、続いての通信が入ってきた。



『現地……生存……一名……第三機動部……壊滅状……』



 え……?

 今、なんて……

 第三機動部隊って聞こえたような……



『直ちに……生存者を回収……生存者はカーネル……』



 カーネル……!

 やっぱりそうだ、間違いない。

 おじさんの部下にカーネルって人がいるって前にも……

 え、でもそれじゃあ……まさか……





『繰り返す、第三機動部隊は壊滅状態。リーダーのシュナイゼルはシグナルを確認できず、医療班は直ちに……』





 そん、な……

 「おじさん……シュナイゼルは!?」 と

 那波は急かすように、机の上の無線子機に問いかけ続けた。

 もちろん相手側には届いていない。

 やがて新たな情報が流れてきた。



『まもなくポイント203へ到着す……な、なんだこれは!?』



 隊員のものと思わしき声が聞こえてきたが、明らかに様子が異常だ。



『どうした!』

『大地が……裂けてる!!』

『どういうことだ説明しろ』

『その通りの意味だ……地表が真っ二つに裂けてるんだ!』

『地震の影響か?』

『いいやこれは自然に出来たものじゃない。何か大きな力で地面を割ったような裂け方だ』

『……第三機動部隊は視認できたか?』

『……今発見した! これより救助に向かう』



 発見によって少しホッとした。

 きっとその場にシュナイゼルもいると思ったからだ。

 そうだ、あのシュナイゼルがそう簡単に死ぬはずがない。

 シグナルはきっと故障か何かで……

 そんな淡い希望は瞬く間に打ち砕かれた。



『これは……ひでぇ……』

『状況を報告せよ』

『第三機動部隊発見。カーネルを除いて、全員死んでいる……』



 ハッキリ聞こえた。

 嘘や故障なんかじゃ……

 おじさんは……本当に……



「いやあああぁぁぁぁあああ!!!!!」



 那波は奇声とも呼べる叫び声を上げながら

 崩れ落ちるように膝をついた。

 視界がぐらりと揺らぎ、頭に衝撃が走ったかと思うと、意識が遠のいた。

 ドクドクと何かが流れていくようだ。

 徐々に目の前が霞んでいく。


 大きな雨粒が屋根を叩く。

 先程よりも勢いが増している。

 轟々と鳴り響いている雨の音しか聞こえない。

 やがて那波の意識は、深い闇の中へと沈んでいった……






Time After Time 1章 託された想い 第Ⅳ話  END

- 0 Comments

コメント入力フォーム

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。